斎藤のいわゆる「疎外」論 1  2021.05.30 藤川一久

1 脱炭素社会への狂騒

 2020年9月22日、中国・習金平が国連総会で「2060年にCO2排出を実質ゼロ」にする脱炭素目標を表明した。

 さらに、同年、アメリカ大統領選で地球温暖化阻止を公約にしていたバイデンが勝利した。早速バイデンは、大統領令を発出。パリ協定に復帰し、ホワイトハウス直属の「国家気候変動本部」、「国家気候変動担当補佐官」を新設し、温室効果ガス排出削減のための諸研究・技術開発のために1億ドルの基金を用意した。さらに、人事面でもジョン・ケリー国務長官を「気候変動担当大統領特使」に、ジーナ・マッカーシー環境保護庁長官を「国家気候変動担当補佐官」に任命した。

 バイデン大統領は、原発について明確な発言はしてはいないが、マッカーシーは「米国は、クリーンエネルギーや新たなテクノロジーを生み出す最前線に立つ。それによって米国内に安定した雇用を生み出す」、と言っている。2015年パリ協定の時のオバマ大統領(当時)の記者会見でも明らかなように、クリーンエネルギーには原子力が入っている。「62.6%もの化石エネルギー源に頼っている。この減らした分を再生エネルギーに頼れるか、というとそんなことは逆立ちしてもできない」、という現実主義的な考えがアメリカ権力者および支配階級においては支配的である。「バイデン氏は、原発は『カーボン・ニュートラル』を達成できる切り札だ、と信じている」、という報道が先走ってなされている。その原発は、次世代原発と言われている革命的テクノロジーを結集した「小型モジュール式原発」ではないか、と言われている。しかし、新たなテクノロジーとは何か、水素社会を目指した政策について、バイデンは今後明らかにするであろう。 (注を参照)  アメリカの権力者においては、気候変動を阻止するためのクリーンエネルギーの安定的な供給を目指して新たな産業をおこし、雇用を創出することが、さしあたり言われているに過ぎない。しかし、中国についでアメリカが「カーボンニュートラル」に転換したことは、世界的な「新たなテクノロジー」開発、「脱炭素技術」開発競争が本格的になった時代に突入した、と言える。

 アメリカに次ぐ、世界第二のCO2排出国である中国・習金平の2020年9月の転換は、驚きを持って世界に受けとめられた。なぜならば、これまで習金平の中国は発展途上国の利害を代弁するかのように、温暖化を招いたCO2の排出は先進国が原因であることを理由に、排出削減を拒否していたからである。

 中国はコロナ感染を収束させた今も経済的危機から脱出できないでいる。貧困撲滅を掲げた国家政策もコロナで破綻した。西南部の工業地区での失業率も増大している。その様な中国は、国内エネルギーの90%を化石燃料に依存している経済再生の切り札として、高度な技術を必要としない風力、太陽光発電を軸にした再生可能エネルギーへ転換した。設備容量で原発120機ほどの風力発電太陽光発電設備をわずか1年で建設したのである(実際の稼働率でいうと原発30機程度であるが)。さらに、習近平は石炭火力の設備容量並の風力、太陽光発電の設備容量の引き上げを号令してもいる。水力、風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーでの発電量で8割近く、原発は1割程度を2060年に達成することを目標にしている。そのための発電力量調整のための技術の開発も目指されているという。さらに、水素社会を展望して、燃料電池車の技術開発への財政支援を行い、水素インフラのモデル地区をつくりだそうと計画している。

 各国権力者は、CO2排出が地球温暖化をもたらすことを阻止するための「カーボンニュートラル」ということを名目とした「クリーンエネルギー」への転換を目指しているのである。それは、コロナパンデミックによる、世界的な経済活動の縮小による自国経済の不況からの脱出を軸にした、化石エネルギーにとって変わるあらたなエネルギーへの開発競争を開始したことを意味する。小型原子炉開発、水素関連技術(水素製造技術、水素インフラ整備、水素発電所)、そして核融合発電所など。熾烈な開発競争の開始である。開発された技術諸形態の生産過程や運輸物流通過程、消費課程への導入は、経済・社会構造の一大変革をもたらすことになる。それこそ彼ら支配階級がが世界経済危機をのりこえる最後のチャンスと観念し、必死に行っていることなのだ。

 そしてそれは、新たな自然破壊の始まりでもある。緑地を破壊した太陽光発電パネルや風力発電所の乱立、海岸を埋め尽くした風力発電所などの光景を思い浮かべるだけで十分だろう。さらに、このような産業構造の大転換は大量の失業者を生み出すのは間違いない。

 このようなことを省みると、2019年12月「国連気候変動枠組条約第25回条約会議(COP25)に向けての、若者を主体とした運動が、あたかも「パリ協定」尊守のための各国ブルジョアジーとその国家権力者への圧力として機能させられていることを意味する、といえる。

 すなわち「クリーンエネルギー」転換のための市民運動である。

 私たちは、このような「クリーンエネルギー」転換のための市民運動や既存の環境保護運動をのりこえ、帝国主義国家・ブルジョアジーや国家資本主義・国家官僚の環境破壊に反対していかねばならない。

 注:今年3月31日バイデンは「EV、クリーンエネルギー技術への大規模投資(約280億ドル)」と「化学燃料業界への補助金廃止」と風力・太陽光発電の税優遇を10年間延長することを打ち出した。議会の承認待ちであるが。

 さらに、ディーゼル車両5万台を引退させ、EV充電設備50万箇所設置するという。翌日、マッカーシーはこの「クリーンエネルギー技術」を「原子力ほか、CO2回収、貯蔵技術」とも言っている。

2021.05.30 藤川一久