気候変動について(6) ドイツ・メルケル首相の2020年の決意

 2020年、メルケルドイツ首相が「温暖化の危機は人類が引き起こした」「いま、政治が何もしないと、その影響を受けるのは、我々の世代ではなく、子供や孫たちがすべての影響を受ける」と決意を表明した。それは、2019年12月31日の2020年1月1日向けの演説の中で、である。2019年は国連気候変動枠組み条約第25回国際会議(COP25)がマドリードで開催され、2015年「パリ協定」の地球温暖化対策への協力を求めた。このCOP25には世界中の多くの若者たちが「パリ協定」履行を求めて圧力をかけた。メルケルのこの演説は、一方で、アメリカトランプの「パリ協定」からの離脱をにらみ、他方、国内の世論を意識してのことであろう。

 メルケルの施策は大体次のとおり。石炭・褐炭を使う火力発電所の全廃し、その分を風力、太陽光などの発電量を増やすための発電施設を建設し補う。自動車、建物の暖房からのCO2の排出低減のためにガソリン、軽油、灯油など化石燃料を販売する企業にCO2排出権証書の購入を義務付ける。鉄道などはカーボン価格制度を導入。公共交通機関の充実とともに電気自動車、トラックなど大型自動車のEV化、水素化とそのための充電、燃料補給施設の建設を計る。一般家庭の暖房用燃料を石油から、(ロシアから輸入した)ガスに転換、そのための補助金制を制度化。これらを通じて、スマートシテイ化を促進する(出力調整が可能な火力発電を失くす以上当然)。

 見てのとおり、化石エネルギーからクリーンエネルギーに転換することが、主眼である。 セメント、鉄、非鉄金属、化学製品、建築などの産業のCO2排出には、排出権で済ます。あるいは外国の企業に転嫁するという欺瞞的なものである。

 「パリ協定」は、産業革命からの気温上昇を2度より低くするためにCO2など温室効果ガス排出を21世紀後半に実質ゼロにすることを宣言している。さらにはオバマ大統領(当時)は化石燃料を基礎にした経済を「汚れた段階」とし「クリーンエネルギー」への投資を求めた。言うまでもなく「クリーンエネルギー」とは、再生可能エネルギー原子力である。また、IPCC「第5次報告書」(2013年)では原子力発電を「成熟した温室効果ガスを出さないベースロード電源」と、2011年福島第一原発事故などなかったかのように推奨している。  

 CO2削減を錦の御旗にして、脱炭素のエネルギーによる新しい経済システムを目指すというのが「パリ協定」の本質である。振り返れば、CO2が地球を温暖化させている、と吹聴したのは、アメリカ、原発・核開発を推進するエネルギー省であり、イギリス、サッチャー首相である。両者ともに、原子力発電の開発推進のためにCO2地球温暖化説を利用してきたのである。

 このことは、2019年12月「国連気候変動枠組み条約第25回条約会議(COP25)に向けての、若者を主体とした運動が、あたかも「パリ協定」尊守のための各国ブルジョアジーとその国家権力者への圧力として機能させられていることを意味する。 「クリーンエネルギー」転換のための市民運動である。

 私たちは、このような「クリーンエネルギー」転換のための市民運動や既存の環境保護運動をのりこえ、帝国主義国家・ブルジョアジーや国家資本主義・国家官僚の環境破壊に反対していかねばならない。 2020.05.30