ハ 放射線被曝ついて
私達は、多少専門的な知識を理解しておくことも重要だ。以下、おさらいしてゆこう。
- 放射線の毒性
放射線という場合、電子レンジから出る電磁波も含んでいる。しかし、原爆や原発で発生した、この有害な放射線を「電離放射線」といい、私は、この毒性を問題にしている。
この電離放射線には、二種類がある。電磁波としてはX線やγ線がある。粒子線にはα線、β線、中性子線、陽子線などがある。このような、粒子、波動には、それぞれ個々にエネルギーを持っている。これらの電離放射線は、分子や原子から電子を剥ぎ取り、その結合を変えてしまう。これが、放射線被曝の恐ろしい所以である。ほかの毒物とは異なる、電離放射線の毒性の恐ろしいところである。
1 LNT仮説とALARA原理
- 被曝は問題ないと主張する御用学者
東電が汚染水を海に捨てていることを容認している御用学者たちは、以下のように主張する。
高村昇教授(長崎大学原爆後障害医療研究所、東日本大震災・原子力伝承館館長)は、「毎日処理水を飲んだとしても」がん発症の「リスク(100ミリシーベルト)が高まる線量に達するまで100年以上かかり、健康への影響はかかりにくい」、とトリチウムが人体に濃縮しても、露見するまでの線量にはならないと主張している。「体内に取り込んだとしても、健康被害が出るとか、DNAを損傷するとかいったレベルに」ならないと主張している。つまり、低線量被曝なので問題ない、というのであろう。
他方、鳥養祐二教授(茨城大学大学院)は「水道水にもトリチウムは入っている」「子供の時からとり続けても、トリチウムは濃縮することはありません」「濃縮は起らず、身の回りの環境と同じになるのが現在の知見です」と、おそらく生物学的半減期が12日と短いことを根拠に、トリチウムは短期間のうちに排泄されるというのであろう。
このような主張には、低線量被曝は、問題がないという考えが貫かれている。
しかし、今日ではICRPでさえ、低線量域での被曝はLNT仮説(がんなどの発症確立は被曝量に比例する)と考え、「低線量レベルに対して、これ以下で全く問題がないという閾値(しきいち)はない、いかなる被曝も何らかの悪影響が加えられ、人体にとって、有益になることはない。どうしても避けられない被曝は、合理的に達成できる限り低く抑える」とする「ALARAの原理」を勧告している(1973年、1990年、2007年)。これは、放射線被曝に「安全量」は存在しないということである。
御用学者たちは、このようなICRPの勧告すら無視し、「安全だ」と主張しているのだ。「晩発生障害」や「確率的影響」を軽視、もしくは認めないという「科学的」立場である。
2 内部被曝の完全な無視
さらに、このような主張には大きな間違いがある。体内に取り込まれたトリチウムは、その2%がDNAに取り込まれることが分かっている。「濃縮することはありません」というのは、まったくのウソである。
さらに、「有機結合型トリチウム」は危険な挙動をする、ということについての無知を露呈させている。
トリチウムが水や水蒸気の形で人体に入ると、99%吸収される。皮膚からも吸収される。しかも、摂取量の2%はDNAに取り込まれるという。
そして、「動物(マウス)実験で、特に造血組織を中心に障害(白血病等)が生じることが明らかにされ、母乳を通して子どもに残留することも報告されている。特にトリチウムがごく低濃度でも人のリンパ球に染色体異常を起こさせることが突き止められた(放射線医学総合研究所所長・中井斌)。
「人が長期間摂取した重大事故も発生している」という人体の影響は極めて大きいとの報告がある。「人体の約60兆もの細胞内の60%~70%は水であって、トリチウム水(広義の重水)が30%を占めれば即死すると言う事」である。(小出裕章)
トリチウムが深刻なのは、水素として細胞の核に取り込まれることだ。核の中にあるDNA(デオキシリボ核酸)を構成している4つの塩基(アデニン、シトシン、グアニン、チミン)は水素結合力でつながり、二重らせん構造を形成して、遺伝情報を含んでおり、結合させている水素としてのトリチウムがベータ線を出す。この水素としてのトリチウムは放射線を放出し、他の細胞を破壊するだけではなく、ヘリウムになることによってかの水素結合はなくなることによりDNAは破壊されるのである。
トリチウムの半減期は、12.3年である。これは、体内にトリチウム水としての水として存在し、新たに入ってくる普通の水と入れ替わる生物的半減期(12日)と誤解してはならない。
次に問題なのは、二人(高村昇教授、鳥養祐二教授)とも内部被曝ということが全く分かっていない。その意味では、ICRPの水準以下である、といえる。
ICRP(国際放射線防護委員会)は、「被ばくした微小領域で本来規定すべきであるが、臓器当たりの平均量で評価することを基準とする」、と宣言している。
外部被ばくの場合は、γ線など体を突き抜ける放射線を全身でうけとめたと仮定し、エネルギー量を体重で割って線量を評価する。そうすると、遺伝子や染色体の損傷も確率的で、線量に比例して起こる、ということは確かに妥当性がある。さらに、内部被ばくは、預託実行線量を用いて評価した体内摂取量を「被ばく線量」に還元し、この被ばく線量が、彼らが決めた、閾値(しきいち)すなわち「規制値」以下なら問題ないとするものである。一見、内部被曝を考慮しているかのようである。しかし、そのような考えかた・方法では、内部被曝を科学的に評価できるものではない。
欧州放射線リスク委員会(ECRR)は内部被曝、細胞レベルで局所的に繰り返される被曝の線量評価は過小評価となる、と批判しているのは当然である。
内部被曝は、体の中でとどまっている放射性物質、例えば細胞間にウランやセシウム、ストロンチウムなどの微粒子がもっているすべてのエネルギーが細胞組織の原子のイオン化等に費やされる。α線は飛程40マイクロメートル、420万電子ボルトを失う。たった40マイクロメートルの間で、約10万個の原子がイオン化してしまう。これは、ICRPの線量評価の10憶倍も違う評価となる。
トリチウムは体内で水として存在する場合は、あらたに入ってくる水と入れ替わる。しかし、2%はDNAとして取り込まれる。摂取し続ければ続けるほど、DNAに取り込まれ続ける。こうして、少なくとも15年以上体内にとどまりβ線を出し、ほかの細胞組織を被曝させ続ける。決して「濃縮しない」どころではない。たとえβ線のエネルギーが18600電子ボルトと小さくても、10ミリメートルの飛程で、すべてのエネルギーでまわりの細胞組織原子をイオン化する。3700ベクレル/ミリリットル(1ミリリットルは1㏄、あるいは0.001リットル)から染色体異常が起こり、370万ベクレル/ミリリットルで、ほぼすべての細胞で染色体の切断が起こる(人リンパ球での実験)。
それだけではなく、DNAに取り込まれたトリチウムとしての水素はヘリウムとなり、DNAを必ず破壊する。これまで述べてきた内部被曝とは次元をことにする。必ず、100%の確率でDNAを切断する。
細胞が死んでしまうほどではない被曝の場合、傷を負った細胞が修復しながら細胞分裂をくりかえす。その過程でDNAが異常な再結合し増殖を開始すると、それがガンなどの障害を引き起こす。こうして【晩発生障害】を発症させる。
御用学者は、ICRPに倣って、低線量被曝、なかんずく内部被曝による障害を切り捨てる。これは、純粋な科学者の立場ではない。原発・核開発を推進する、という政治的な立場に立っていることによる。
この機関は放射性被曝を過小化している。
ICRPは1945~1989年間で原爆投下、核実験、原発からの放射線によって死んだ人は117万人と発表している。しかし、欧州放射線リスク委員会(ECRR)は6500万人と発表している。この大差は、ICRPが内部被曝による死亡を否定していることによる。とりわけ小児がんで死んだ子供160万人、母親のおなかの中で胎児のまま死んだ子供190万人を無視していることによる。
このように、低線量被曝による晩発生障害と、特に内部被曝を切り捨てているのがICRPなのである。
トリチウムだけでなく、セシウム、ストロンチウム、プルトニウム等のすべての放射性物質は取り込まないほうが良い。「内部被ばくから体を守るためには徹頭徹尾、放射能汚染された食品を口にしない。これをめざなくてはいけない。やむを得なく、食べざるを得ないとしても赤ちゃんや子供たちについては1㎏あたり1ベクレルもあったら大問題です」(矢ケ崎克馬琉球大学名誉教授)
2011.3.11福島第一原発の事故以来、日本政府と御用学者たちは、放射線被曝の「安全神話」を振りまいてきた。今回の放射能汚染水の海洋投棄は、その集大成と言えるであろう。福島の人々や「国民」に「緩慢な死」を強制することは、許されない。
汚染水を海にすてるな!!
海を殺すな!!
二 代替案をまともに検討しない、日本政府
代替案については日本の複数の市民団体が政府に対し、再検討を迫った経緯がある。しかし、都内のある団体代表は、「当時、経済産業省には『何を言われても路線は見直せない』という雰囲気が強かった」、と語っている。
日本政府が、代替案を検討しないのは、トリチウムを放出している、原発・核兵器所有国の意向でもある。
トリチウムの海洋放出は、人間に多くの影響があることは世界から報告されていることについてはすでに述べたが、再度確認する。
カナダからは、カップリング原発の下流域で新生児の死亡率の増加、小児白血病の増加が報告されている。
日本でも同様なことが起きている。玄海原発が立地する玄海町の隣町である唐津市で白血病の増加が、泊原発立地町の泊町、隣町の岩内町でもガンの発生が原発稼働後に道内でそれぞれ、一位と二位になった、と報告されている。
再処理工場はさらに深刻だ。大量のトリチウムが放出、排出されているからだ。イギリス、フランスの再処理工場周辺での白血病を含む健康被害が多いことが指摘されている。
日本政府と東電のトリチウム水海洋放出を止め、ほかの方法に変更することは、結果的に、世界の放射能被曝による健康被害を認めることになるのだ。
六ケ所再処理工場が稼働を始めると、一年間で800トンの使用済み核燃料を処理することになり、トリチウムの全量が再処理の過程で環境中に放出する。
それは年間18ペタベクトルである。
(福島第一原発で溶け落ちた核燃料は約200トン。それに含まれるトリチウムは、約3.4ペタベクレルである。)
日本政府も原子力規制員会も電気事業者も、絶対に福島第一原発のトリチウム水=汚染水の放出を止めるわけにいかない根拠がここにある! 放射能汚染水を1500ベクレル/Lまで薄め、年間22兆ベクレルの海洋投棄をやめたら、再処理工場は成り立たなくなるからだ。つまり、原発を推進し、核兵器を開発する技術を開発する、という日本国家の根幹にかかわる問題なのだ。
しかし、そんなことは理由にならない。太平洋は、ごみ捨て場ではない。
世界の漁獲量の70%を有する太平洋、この太平洋の貴重な海洋資源に依存し、経済・文化、風土を創り上げてきた島嶼諸国の人々とその社会、そして海洋生物の安全を破壊することは、絶対に許されるものではない。ましてや、島嶼諸国の人々は、ビキニ環礁、タヒチ諸島等での相次ぐ原水爆実験による被曝を経験しているのである。
彼らとともに、日本政府と東電による放射性汚染水の海洋投棄を許さず、闘ってゆこう!
日本の原発・核開発を阻止しよう!!
2023.11.05