2023年8月24日、東京電力は、事故により発生した福島第一原発敷地内に保管されている放射能汚染水を、岸田政府の方針に基づき海に捨てた。以降10月5日、11月2日と連続的に岸田政府と東電は放射能汚染水を海洋投棄した。ドイツ・レムケ環境大臣や、中国政府、太平洋諸島フォーラムなどの反対、さらには全米海洋研究所協会による「中止」要請を無視して汚染水を海洋投棄した、この許しがたい犯罪に対して怒りを込めて弾劾する。
イ 風評被害の問題か
この放射能汚染水を東電が海に捨てたことに対して、「ホリエモン」という軽薄な輩ががなり立てた。曰く、「風評被害」を煽っている。福島の人々が「かわいそうだ」、「処理水」は安全だ、これは「中学生の化学のレベルだ」等々。このデマに等しい「ホリエモン」の言辞は全く許しがたい。
私は、放射能汚染水を海に捨てることには絶対に反対である。その理由を、「中学生レベル」とは関係ないきわめて常識レベルの簡単な話から始めよう。
● 放射能は毒である。放射線は目に見えず、匂いも、味もない。大量に浴びれば死ぬ。体内にこの放射性物質が取り込まれれば、ごく少量でさまざまな障害を引き起こす。このことを否定する「科学者」はいない。
この放射能という毒物を基準値以下にし、環境中に捨てることの是非の問題だ。ここでは、このでたらめな「基準値」の問題性については述べない。
私たちは、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす」「アルプス処理水(=トリチウム水)」も薄めて「基準値」以下にして捨てていることは十分に承知している。
問題は、この毒物を、たとえ「基準値」以下であろうと、環境中に捨てて良いかどうかの問題である。これは、倫理上の問題、汚染物質の海洋投棄を禁止した「ロンドン条約」違反の問題であって、なんら「風評被害」ではない。
また、何より「基準値」以下ならば危険性はゼロであるなどという主張は、まったくのデマの類だ。
人間の経済活動によるさまざまな環境破壊が進み、地球が悲鳴を上げている、という危機感を持つ人々が大勢いる。こういう人々の声を背景にしているのかもしれないが、毒物を捨てる、ということへの危機感に対し、「安全だ、安全だ」などと、がなり立てても何もならない。何も解決しない。
● 放射能は毒である。いくら「基準値」以下に薄めても、この海洋投棄は、いつ終わるのか、まったくめどが立っていない。なぜなら、事故を起こした福島第一原発から発生する放射能汚染水は出続けるからである。つまり投棄する放射性核種の総量には「基準値」の規制をかけないのだ。
この放射能汚染水を捨て続けた、福島の海産物を、消費者が購入するかどうかということである。
目の前に、放射能汚染水を捨てた海からとれた海産物と、そうでない全く別の地域の海産物が並べられている、とする。消費者はどちらを選択するかだ。こんなことは説明する必要はない。「市場原理」によって決まることだ。これこそ小学生でもわかる常識だ。
しかも、後述するが、福島の海からの海産物には、放射能が蓄積され、それを食べたら「臓器に異常」が発生する、「赤ちゃんの先天性奇形」が発生する可能性がある、ということを排除できないという、正しい知識を得た消費者ならなおさらだ。
● では、「中学生の化学レベル」の話をしよう。海に捨てるのは、「基本的にトリチウム水」だという。
前述したように、これも薄めてではある。しかし、このような放射能汚染水には、69種以上の核種が入っている。代表的なものとして、炭素14,マンガン54、コバルト60、ストロンチウム90、テクネチウム99、カドミウム113、ヨウ素129、セシウム137、プルトニウム239などである。また、一年間の放射能汚染水の海洋投棄の総量はトリチウムが22兆Bq(ベクレル)、上記の核種で2億15,000万Bqになる。これらの放射性物質は、一部は海底に沈殿するであろう。当然に食物連鎖が問題とる。また、トリチウム水は水である。水素と酸素の結合したものであり、この水素の放射性同位体がトリチウムである。したがって気化し、浜風に載って福島の大地を汚染することにもなる。
● 専門的な話こそが問題なのである。御用学者は絶対に口にしない。かつての福島第一原発の地震や、津波の警告を無視しした御用学者の言辞の、すなわち嘘、捏造、隠ぺいを駆使した、「中学生レベルの化学」を超えたものがあるのだ。それについては後述する。
● 世界各地でトリチウム被害が報告されている。
カナダ
ピッカリング重水原子炉周辺では、トリチウムを年間2,500兆Bq(ベクレル)放出。
周辺の都市では、80%増ものダウン症候群の赤ん坊の出産が増加している。また、中枢神経系統に異状のある赤ん坊の出産も明らかにされている。(カナダ原子力委員会報告)
イギリス
セラフィールド再処理工場で原子力量労働者が受けた外部被曝線量と、その子供たちの小児白血病との関連を見出した。
小児白血病は増加しており、被曝をもたらす可能性の核種として、トリチウムとプルトニウムがあげられた。(ガードナー報告)
地中海
魚などの生物にトリチウムが濃縮された。
インド
ラジャスタン重水炉の風下や下流の村落で、赤ん坊たちの間で先天性の奇形が高レベルで生じている。(イギリス4チャンネルテレビ)
アメリカ
ハンフォード軍事施設周辺で、神経系統異常出産(無脳症など)が、増加していまる。(父親がハンフォード軍事施設で働いている息子であるSever報告)
サウスカロライナ州サバンナリバー工場周辺では、大人の白血病が増加している。また、同州バーンウエル地区の周生期(出世期~早期新生児期)の、死亡率が高いことも非公式に伝えられている。(アメリカガン研究所NCI報告)
日本
トリチウムを大量に放出する加圧水型原子炉である玄海原発や、泊原発周辺では明らかな健康被害のデータが示されている。
最後に
福島の人は「かわいそうだ」、とホリエモンは言う。確かにその通り。全くその通りだ。だが、このような事態を招いたのは、東京電力と日本政府と、安全神話をでっち上げた御用学者たちではないのか。地震、津波が来ることを警告されても、一顧だにせず無対応であったではないか。一切の責任は彼らにある。「中学生レベルの化学」以下の人々による、マスコミによる「風評被害」の問題などでは、決してない。
問題はさらに深刻なのだ。それ故に私は警告する。
福島第一原発周辺の人々が、トリチウム水による内部被曝による健康被害、つまり、白血病、臓器の損傷、子どもの奇形などを発症するであろうことを。
今また御用学者の「中学生レベルの化学」を総動員して、岸田内閣は「緩慢な殺人行為」という犯罪を行っている。
ロ 次に、私は、必ずしも反原発を主張しているわけではない科学者の、放射能汚染水の海洋投棄にかんする見解を紹介する。
- 全米海洋研究所協会が海洋放出に反対声明
全米海洋研究所協会は「前例のない放射能汚染水の太平洋への放出」と明確に規定し、放射性廃棄物の貯蔵・保管に関する「安全性の結論に欠陥がある」と、痛烈に批判した。
「東京電力と日本政府が提供したデータは不十分であり、場合によっては不正確である。サンプリングプロトコル、統計デザイン、サンプル分析、仮定に瑕疵があり、その結果、安全性の結論に欠陥が生じ、処分の代替手段をより徹底的に評価することができなくなるのである。放射性廃棄物を安全に封じ込め、貯蔵し、処分するという問題に対処するためのあらゆるアプローチが十分に検討されておらず、海洋投棄の代替案は、より詳細かつ広範な科学的厳密性をもって検討されるべきである。」
その上で太平洋への「放出を中止」し、他のアプローチを追求せよ!と、日本政府と東電に要求を突きつたのである。
「私たちは日本政府に対し、前例のない放射能汚染水の太平洋への放出を中止し、海洋生物、人間の健康、そして生態学的・経済的・文化的に貴重な海洋資源に依存する地域社会を守るための他のアプローチを、より広い科学界と協力して追求するよう強く求めます。」(全米海洋研究所協会の声明2022.12.12)
さらに、この『声明』は、次のように具体的に、日本政府と東電が、希釈して海へ放出するにあたって無視していること、アルプスが放射性核種を除去できていない、と鋭く問うている。
「この汚染水の放出計画は、海洋生態系の健全性、および海洋生体系に生命と生活を依存する人々にとって、国境を越えて懸念される問題である。私たち(※筆者注:全米海洋研究所協会NAML)は、各タンクの放射性核種含有量、放射性核種を除去するために使用される多核種除去設備(高度液体処理システム)(ALPS)に関する重要なデータ(critical data)がないこと、そして汚染された廃水の放出に際して『希釈が汚染に対する解決策 』という仮定について、懸念を有している。」とし、「希釈の根本的な根拠は、有機結合、生物濃縮、生物濃縮という生物学的プロセスの現実と、局所的な海底堆積物への蓄積を無視している。蓄積された廃棄冷却水に含まれる放射性核種の多くは、半減期が数十年から数百年に及び、その悪影響はDNA損傷や細胞ストレスから、アサリ、カキ、カニ、ロブスター、エビ、魚など影響を受けた海洋生物を食べた人の発がんリスク上昇にまで及ぶとされている。さらに、多核種除去設備(ALPS)が、影響を受けた廃液に含まれる60種類以上の放射性核種(その一部は人を含む生物の特定の組織、腺、臓器、代謝経路に親和性を持つ)をほぼ完全に除去できるかどうかが、重大なデータ(critical data)がないため、依然として深刻な懸念として残っている。」
この『声明』は極めて重要で、全米海洋研究所協会の『反対声明』と同協会の科学者の働きかけがあって、太平洋諸島フォーラムヘンリー・プナ事務総長が放射能汚染水の海洋投棄に反対するという発言をしたのだ。
② トリチウムの脳などへの危険性 『発達障害の原因と発症メカニズム』(黒田洋一郎、木村・黒田純子著)より
この著書において脳科学者である黒田洋一郎と木村・黒田純子は、トリチウムの脳への影響、脳障害を引き起こす危険性について、警鐘を鳴らしている。
「トリチウムの毒性は特別」で、トリチウムは体内のほとんどの有機物と直接結合し慢性毒性を持つ」。「これは受精の際の問題だが、その後胎児が成長すると、脳細胞のDNAは特に活発に活動して脳を共発達させてゆく、トリチウムは脳細胞でも、被曝したDNAに異変を起こし、異常を生じさせる」。「最悪の場合はDNAの塩基間の水素結合を壊し、DNA二重らせん構造はもはや機能を失ってしまう。そのため脳のあらゆる種類の細胞は細胞死を起こす可能性が高まり、脳機能の要である神経回路網の異常の原因となる。認知機能も低下、運動機能の低下など、子供の脳の発達を妨げるだけでなく、大人の脳機能も低下し、認知機能がトリチウム被曝でおかしくなる可能性がある」。「日本ではアルツハイマー病、パーキンソン病ばかりではなく、統合失調症や一般の精神疾患も、福島事故以降日本で急に増えている。発達障害、アルツハイマー病などの脳関係の疾患については「トリチウムの脳細胞への長期蓄積による神経細胞などの異常、脳機能への影響の原因」とすれば説明できる。」と述べている。特にトリチウムは「神経情報をはこんでいる電気コード(軸索)」に残留・蓄積するために「脳神経の機能回路に与える影響が甚大」だという。
2023.11.05